中央区日本橋

民話  乞食のくれた手ぬぐい

乞食の手ぬぐいで顔を拭くと、目の覚めるような美人に変わったが

民話  乞食のくれた手ぬぐい

(話し手)落語家 三遊亭遊かりさん

三遊亭遊かり

話し手は、女性噺家、三遊亭遊かりさんです。艶のある声は生まれ持った賜物。噺家になる前に経験した10年の様々な人生経験が肥しとなって、遊かりさんのお話しは、心の奥底に響きます。生まれ持ってのまさに話し家、噺家、三遊亭遊かりさんです。

昔話や民話の中には、心優しいけれども幸せではない人が神様や王子様のおかげで幸せになる物語があります。 有名なのが、グリム童話の「シンデレラ」でしょう。日本にも継母からいじめられていた姫が、貴族の男性から助けられて結ばれる「落窪物語」があります。 いつの世にも、人々には心優しい人こそ幸せになってほしいという共通の願いがあるようです。 徳川政権が日本を統治した江戸時代にも、同様の話が伝わっています。 江戸の町で、海産物を扱うお店がありました。このお店には。お梅という娘が働いていました。お梅はとても優しく、誰に対しても親切な娘でした。そして、お店でも一生懸命に仕事をする真面目な娘でした。誰からもいい娘だと認められる存在でしたが、残念なことに顔が美しいとは言えない娘でした。いわゆる醜女(しこめ)とかブスとは言われるような娘だったのです。 人間は、特に男は馬鹿なもので、いかにいい娘であってもつきあったり、結婚したりするのは、やはり美しい女性の方がよいと考えがちです。そのため、お梅も「いい娘なんだが」というところで終わってしまい、男性とのおつきあいに発展することはなかったのです。 このお梅が、夏の暑い日に店前で水を撒いていました、すると、一人の乞食が店にやってきました。乞食とは、今でいうホームレスのことです。食事などを他人から恵んでもらっているような人のことでした。 ある乞食が、水を撒いているお梅に「水を一杯ほしい」と言ってきました。しかし、その時、店先にいた店主の妻(日本では女将さんと言います)が、「乞食にやるものはない」」と言って、乞食を追い返してしまいました。 しかし、お梅は「この暑いのに可哀そうだ」と思って、女将さんに内緒で水と握り飯まで乞食に渡したのです。 乞食はとても喜び、せめてものお礼にと、自分がもっていた汚い手ぬぐいをお梅に渡したのです。 その夜、お梅は夢を見ました。目の前に観音様(日本仏教に出てくる仏様の一種)が表れて、お梅の顔を優しく撫でました。すると、お梅の顔が美しい顔に変わったのです。 朝になって目が覚めると、お梅は急いで鏡を見ました。でも、そこにはいつもの醜い自分の顔があるだけでした。やはり、若い年頃の娘でしたので、お梅も自分の容姿の醜さを気にして悲しんでいたのです。 その日、店でいつもの通り働いていたお梅は、店の男から自分の容姿をからかわれました。お梅は悲しくなり、涙を流しました。そして、ふと手に持っていた乞食からもらった手ぬぐいで顔をぬぐいました。すると、お梅に奇跡が起こったのです。      

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